
6月に出た日本SF作家クラブ編のオリジナル・アンソロジー第7弾。今回は星新一生誕百年を記念した、ショートショート50編が集められている(100編では多すぎるからだろう)。作家クラブの井上雅彦会長(第22代)は《異形コレクション》で知られるアンソロジーの名手、50人の作家/作品をデビュー順に並べ、解説にベテラン高井信を配する(実作も収録)ベストな構成といえる。
筒井康隆(1934)「楽天ボウル」隣のレーンにやってきた初心者めいた女。梶尾真治(1947)「ユミと私の宇宙論」宇宙論を語り合うユミとの距離が開いていく。
新井素子(1960)「花粉症事始め」天地ができて、さまざまなかみさまが生まれてくる。高井 信(1957)「豆か虫か」そこにあるのは豆なのか虫なのか。藤井青銅(1955 *S)「ト○○◦○の日」豆苗に正体不明の薬を与えたらどんどん伸びて。江坂 遊(1953 *S)「手つなぎ鉄道心中」妻との約束を心に鉄道に乗ると。太田忠司(1959 *S)「襖の向こう」はてしなく続く襖の迷路の奥で出会った人。菅 浩江(1963)「亜麻色のインヘリタンス」惑星の生き物が不老不死である秘密とは。草上 仁(1959)「振込詐欺」その男は加害者なのか被害者なのか。傳田光洋(1960 *S)「六畳の星座」昔住んでいた家では天井に星座があった。深田 亨(*S)「猫笑いの夜」異人館で出会った猫とマジックショー。井上雅彦(1960 *S)「竜の高み」恐竜の発掘現場から家族に送る手紙。安土 萌(1951 *S)「ガイコツのいる美容室」わたしが母を失ったてんまつ。斎藤 肇(1960 *S)「視線」指先の小さな穴の向こうに少女が見える。奥田哲也(1958 *S)「鈍色の荒野」荒野の中を宇宙服で歩く。田中哲弥(1963 *S)「森の中」取材の帰りに足止めされた記者は森の中の宴に誘われる。藤井 俊(1965 *S)「ショートショート★トーナメント」何気なく書いたショートショートはコンテストを勝ち上がっていく。矢崎存美(*S)「心の声」70歳になったテレパスは能力の衰えを感じる。
法月綸太郎(1964)「寿限無対反魂香」大岡越前守には死者の魂を呼び返す力があった。北原尚彦(1962)「希少天使保護実験」希少動物保護を唱える博士が対象としたのは天使だった。北野勇作(1962)「亀たち」隣町にたくさん亀たちがくるので見に行かなければ。高野史緒(1966)「ささやかな神」神を開発した企業を訪問、案内されたところにいたのは。林 譲治(1962)「天狗党」天狗の実在を信じ信奉する天狗党の幹部が尋問される。小川一水(1975)「内銀河調停局一〇八号」恒星連合の調停船は、ある惑星の紛争沈静化に乗り出す。円城 塔(1972)「初等魔術教本断片modulo3」呪文を使う魔術の基本について、その理屈が説明される。伊野隆之(-)「南へと歩く」ウォーカーを使って避難船まで歩いていると、途中で猫をつれた女と出会う。松崎有理(-)「海の価値」世界各地の海で急激で巨大な膨らみが見られる。宮内悠介(1979)「衝突」地球と同等の質量を持つ天体が衝突軌道上にあった。高山羽根子(1975)「JBのシンドン」ジェームズ・ブラウンのマントには特別な意味がある。坂永雄一(-)「天動説の発見」ストリートビューで見つけた送電塔にはなかなかたどり着けない。酉島伝法(1970)「予鳥」教会の磔刑像が突然しゃべり出すようになる。オキシタケヒコ(1973)「蝕」国が滅びると分かったとき、姫は呪詛を解き放つことにする。倉田タカシ(1971)「脳、または石」幽霊が住むのは脳なのか石か。山本浩貴(いぬのせなか座)(1992)「偏秒」世界中で、あるとき同時多発的暴力が起こり多数の犠牲者が出る。久永実木彦(-)「帳尻が合う」人のためになりたい、しかし帳尻が合わないといけない。赤野工作(-)「/*ナイジェルによる引継書*/」これはゲームの引継書だが、そのゲームというのは。日高トモキチ(1965)「ながいながい鼻のはなし」長い鼻の坊主の話からはじまり、お話は予測不能に転々とする。
関元 聡(1970 *H)「冥王星行き貨物船」冥王星に着陸した宇宙船には、とても象徴的な任務があった。鵜川龍史(1977 *H)「閉域観測」級友となじめない男の子の隣に転校生がやってくる。坂崎かおる(1984)「雪のかれら」後に老中にまで登り詰める父親には、雪の結晶を観察する趣味があった。溝渕久美子(-)「環と線と」失われつつある島の女たちだけが使う言葉があった。青島もうじき(-)「鳥はさやかに」鳥として造られたから鳥のように飛ぶ。葦沢かもめ(*H)「SOUL.md」方言をしゃべるばあちゃんとの対話を生成するAI小説のプロンプト(これ自体がAI生成)。稲田一声(1990)「二・七八秒の針」予覚者は2.78秒先の未来を知っている。犬怪寅日子(-)「Myxogastria」私が地上で持つ固有振動は【蔠】である。灰谷 魚(-)「スイミングプールの底には魂が沈んでいる」先生は毎夜プールの底に潜って魂を拾う。大澤博隆(1982)「配慮の衝突」AIを外から観察するのがAIカウンセラーの仕事だった。三宅陽一郎(1975)「ねごとラーニング」時代遅れと揶揄された博士は、ねごとを誘発する枕を開発する。岡和田晃(-)「十四」その墓所では14という数字が鍵となっていた。岡田 悠(1988)「鳥取空港 手荷物受取所」鳥取空港のターンテーブルには、どこからとも知れない手荷物が現われるという。
注:括弧内は生年(明らかにしていない場合は-とした)、*Sは星新一ショートショートコンテスト(1979~86)出身、*Hは日経の星新一賞(2013~)出身者をあらわす。
デビュー順という趣向もあって、その結果モアレのような縞模様(作品の優劣を意味するものではありません)が生まれている。上記では本書を便宜的に3つの集合に分けた(本ではそういう区分はない)。星新一と同じ時代を生きた筒井康隆(8年年下)とすぐ後の梶尾真治(21年年下)は別格としても、星新一が選考したコンテストや著作の影響が大きい新井素子から矢崎存美までの16名は、(例えば、菅浩江や井上雅彦など)トラディショナルなショートショートのスタイルが生かされている。一方、法月綸太郎から日高トモキチまでの19名は、もっと長いお話のスナップショットのような作品群で、スタイルよりも(例えば、北野勇作や高山羽根子など)誰が書いたかすぐ分かる個性の方を際立せている。デビューが最近の関元聡から岡田悠までのグループでは、旧来のショートショート基準に則った作品(例えば、関元聡や岡田悠)と、言葉のアクロバット的な言語実験(例えば、青島もうじきや犬怪寅日子)に別れているのが面白い。性質こそ異なるもののどちらにも味はある。これらが全体としての陰影をなして、モアレ縞のように見せているのだと思われる。
- 『恐怖とSF 』評者のレビュー









